2022年10月27日にツイッターの買収を完了したアメリカの起業家イーロン・マスク氏。
CEO就任早々、これまでの取締役を全員解任したり、社員の半数にあたる約3,700人を解雇するなど、同氏の破天荒とも言える振る舞いは大いに世間を騒がせています。
今回はマスク氏のツイッター買収をめぐって起きている騒動をまとめました。
イーロン・マスク氏と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、電気自動車メーカー「テスラ」の社長という方も多いのではないでしょうか。
イーロン・マスク氏は、1971年・南アフリカ共和国で出生。18歳のときに母親の出身地であるカナダへ移住し、クイーンズ大学に入学。
その後アメリカの最先端のテクノロジーやカルチャーに憧れ、クイーンズ大学入学の2年後に奨学金を得てペンシルバニア大学に転校します。
ペンシルバニア大学で物理学と経済学の学士号を取得したのち、応用物理学を学ぶために名門スタンフォード大学の博士課程に入学。しかしわずか2日間で退学してしまうのです。
このとき「インターネットの時代が来る」と確信していたイーロン・マスク氏は、弟のキンバル・マスク氏と【Zip2】というネットコンテンツ会社を創業。
軌道に乗った会社は1999年に【コンパック・コンピュータ】に売却され、マスク氏は約25億円の売却益を得て、28歳という若さで億万長者の仲間入りを果たします。
多額の資金を手にしたマスク氏は、【Zip2】売却とほぼ同時期に【Paypal】の前身となるオンライン銀行【X.com】を創業します。
すると2002年には【eBay】が【Paypal】を買収し、今度は約220億円を手にすることになるのです。
その後、マスク氏は【スペースX】や【テスラ】を創業していき、稀代の連続起業家としてその名を轟かせていきました。
今回の騒動は2022年4月5日、ツイッターがマスク氏の取締役就任を突然発表したことから始まります。
同氏はツイッター社の株の9.2%を取得して筆頭株主となり、買収を提案しました。その後買収をめぐりマスク氏とツイッター社で主張が二転三転したものの、10月27日に買収が完了したことが報じられ、10月31日には同社CEOに就任しました。
マスク氏はツイッター買収の目的を「暴力に訴えることなく、幅広い信条について健全に議論できる共通のデジタル広場を持つことは文明の未来にとって重要」と説明しています。
マスク氏自身もツイッターを通じて世間へ情報を発信している側ですが、過去には自身のツイートが問題視されたこともあり、テスラの株式に関するツイートをめぐってはアメリカの証券取引委員会から指摘を受けた結果、罰金の支払いと一定期間のテスラ社取締役除名という裁定を受けたこともあります。
こうした制約や世間からのバッシングに対しての思いもあり、ツイッター社買収を実行したのではないでしょうか。 ビジネスの観点で見てみると、マスク氏はツイッター社の広告による収益の依存度を下げていき、ユーザーから直接課金するサブスクリプションモデルや、コンテンツ販売の決済手数料による収益を増やしていくことが予想されます。
テスラは広告を出したことがないことで有名ですが、マスク氏は広告ビジネスに対してあまり熱心ではないことも関係しているかもしれません。
またマスク氏は、ツイッターをさまざまなサービスがまとまった「スーパーアプリ」へと変貌させることも示唆しています。この構想の準備段階として、ツイッター上で利用者同士がお金をやりとりしたり、コンテンツを売買したりできる決済機能を導入する方針を明らかにしました。
このスーパーアプリ化構想の背景には、ネット通販や配車サービスなど、各種サービスを一つのアプリで使うことのできる中国の「微信(ウィーチャット)」などが念頭にあるものと見られ、まだアメリカでは一般的ではないこの「スーパーアプリ」を一番最初に作り上げることを目指していることが伺えます。
マスク氏は、10月31日にツイッター社CEOに就任すると同時に取締役を全員解任、11月4日には国内外を含めた従業員7,500人の半分にあたる約3,700人に解雇を通告したことが主要メディアによって報じられています。
今回の人員整理では、営業やマーケティング、開発やコーポレート部門など幅広い部門が対象になったと予想されています。 実際にツイッター社日本法人でも、すでに広報部門が全員解雇されたと報じられました。
この一連の流れに対し、ツイッターの共同創業者の一人で、2021年11月までCEOを努めたジャック・ドーシー氏が、「企業規模の拡大を急ぎすぎた。解雇された人たちがこのような状況になってしまったのは自身の責任であり、お詫びする」と謝罪する事態に。
さらに解雇通告を受けて、一部従業員は「60日前の事前通告をせずに大量解雇することは違法」だとしてツイッター社を相手取った集団訴訟を起こしています。
「言論の自由を守る」と主張していたものの、10月下旬のツイッター買収取引完了直後から、ツイッター上では嫌がらせや差別的な投稿が急増しています。
また、政治家から個人まで世界で数億人が利用する公共性の高いアプリの情報基盤の全権をイーロン・マスク氏一人が握ったことにより、その危うさへの懸念が広がっているのも事実です。
こうした動きを受けて、アウディやファイザーなどの世界的大手企業がツイッターへの広告出稿を一時停止したことも報じられています。
「ハーゲンダッツ」などを手がける米食品大手のゼネラル・ミルズもその一つで、同社は「今後のマスク氏の新しい方向性を注視し続け、マーケティング広告を評価していく」などと述べるなど、広告事業が収益の大黒柱となっている現在のツイッター社にとって、逆風となることは間違いありません。
ツイッター上の不適切な投稿の監視・削除が行き過ぎであるとの問題意識から、自らを「言論の自由の絶対主義者」と称し同社の買収に乗り出したイーロン・マスク氏。
収益改善のため、サブスクリプション型のサービスを新たな収益源とする考えを示したり、大規模な人員削減を実施しているが、一部のユーザーが組織的に嫌がらせや差別的な投稿を行ったり、大手の広告主が相次いで広告出稿を停止するなど大きな困難にも直面しているのも事実です。
またツイッターを、言論の自由が保証された場としてだけではなく、アプリ一つであらゆるネットサービスを受けることができる「スーパーアプリ」にしていきたいという野望も見えてきました。
これまで連続起業家として類を見ない成功を収めてきたイーロン・マスク氏ですが、すでに誰もが知る巨大プラットフォームを持つツイッターという企業をどのように経営していくのか、引き続き世界から注目されることになるでしょう。